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広島高等裁判所 昭和25年(う)352号 判決

被告人

山本巧

外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

弁護人豊川重助、同小林市太郎の控訴の趣意第一、二点について。

しかし、刑事訴訟法第三百十九条第二項が日本国憲法第三十八条第三項の意を受けて、被告人の自白の外に補強証拠を必要とする旨を規定したのは、いわゆる罪体に関して、自白の外にこれを補強する証拠を必要とするというに止まり、被告人の主観に関する事項についてまでも、これを補強すべき証拠を要求したものでないと解すべきであるから、当該犯人が被告人であること、被告人に故意があつたこと等は、いわゆる自白のみによりこれを認めることができるものである。いまこれを原判決について見ると、原判決は所論のとおり相被告人吉岡好雄の原裁判所公判廷における供述、同人の供述調書を証拠としているけれども、その外に、証人岩崎亀吉、同広田啓二の原裁判所公判廷における各供述、藤岡鷹助(二回)、安江政雄の各供述調書柳井機関区長岩崎亀吉作成の上申書をも証拠としており、これ等の証拠はいずれも、罪体に関する証拠であつて、刑事訴訟法第三百十九条第二項にいう被告人の自白のみで有罪の認定をしたものでないこと明らかである。また所論にいう被告人吉岡好雄の自白も相被告人の供述であつて、これを被告人山本巧の事実認定の補強証拠とすることは論旨引用の最高裁判所判決の肯認するところであつて何等違法というをえない。従つて原判示窃盗教唆、各賍物牙保の事実は、原判決の挙示する各証拠を綜合すればこれを認めることができ、これをそのように認定するについて経験則に反するものともいえない。所論中原判決が採用しなかつた証拠に基ずき、原判決の認定を攻撃する部分も弁護人独自の見解に過ぎず採用することを得ない。各論旨は理由がない。

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